人口減少時代における持続可能な水道事業

一般質問

以下は、2026年6月定例会で「人口減少時代における持続可能な水道事業」について、私が行った一般質問の要旨です。

  • 2026年に10年間を計画期間とする「佐伯市水道事業総合戦略」を策定・公表。示唆に富む内容。
  • 水道管を全部新しくするには210年以上かかる計算。人の一生の三倍近い時間。
  • 水道の課題は、地域別収支の見える化、小規模分散型の施設整備、隔月料金徴収によるコスト減など。
  • 水道政策は「どこで暮らし続けるのかという問いと、表裏一体」。まちの姿をかたちづくる次期「総合計画」の策定に織り込むことは必須

水道は、蛇口をひねれば水が出る、当たり前のインフラです。私たちは普段、その水がどこから来て、どんな設備を通り、どれだけの費用がかかっているのかを、ほとんど意識することがありません。

しかし今、全国の地方都市で、その当たり前が揺らぎ始めています。人口減少、設備の老朽化、そして技術者不足。この三つが同時に進行し、水道事業の経営基盤を静かに、しかし確実に侵食しています。

佐伯市も例外ではありません。本年3月31日、市は今年度から10年間を計画期間とする「佐伯市水道事業総合戦略」を策定・公表しました。読み込んでみると、示唆に富む内容でした。一般質問では、この戦略を土台にして、本市の水道が抱える課題を掘り下げました。本稿はその報告です。

まず、佐伯市の水道がどういう条件に置かれているかを共有させてください。

本市の管路、いわゆる「水道管」の総延長は918キロメートルあります。これは大分市に次いで県内第2位の長さです。数字だけでは実感が湧きにくいので一つ喩えを挙げると、東京から広島までの新幹線の線路が約900キロメートルです。あの距離に相当する水道管が、佐伯市の地下に埋まっていることになります。

なぜこうなったか。九州で最も広い市域を持ち、平成の大合併で九つの市町村が一つになりました。そして山間部・沿海部に多数の小規模集落を抱えています。この結果、旧自治体ごとの水道施設を広く抱え、管路が長く、しかも人口密度が低いという構造になりました。

話は変わりますが、2024年から、水道行政はそれまでの厚生労働省から、下水道を所管する国土交通省へ移管されました。国のレベルでも、水道を「衛生の問題」から「まちのインフラの問題」として捉え直す動きが始まっている、と受け止めています。

質問の入口として、一つの試算を取り上げました。

水の安全保障戦略機構 」という一般社団法人があります。国内外の水問題の解決を通じて持続可能な未来の実現を目指す団体で、2009年1月に産官学の有識者や超党派の国会議員らによって設立されました。
この機構が、水道行政の移管と同じ2024年に「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」というレポートを発表しています。

このレポートには、全国の自治体の水道会計が将来困らない様に、料金改定を1回だけ行うとしたら、いつ、どの水準で行う必要があるか、を自治体ごとに示した表が載っています。

そこに示された佐伯市の姿は、大分県内他の自治体同様に、決して楽観できるものではありませんでした。早々に料金改定が必要だという見解です。

誤解のないように申し上げますが、これは予言ではありません。今の料金水準と今の投資水準をそのまま続けたら、こうなる、という「現状の延長線上の姿」を描いたものです。
裏を返せば、今から手を打てば違う姿になり得るということでもあります。

水道管を全部入れ替えるには210年掛かる

次に、より具体的な課題を見ていきます。

水道事業総合戦略には「管路更新率0.47%」という数字があります。これは年間に水道管全体の0.47%を更新しているという意味です。この水準を続けた場合、水道管を全部新しくするには210年以上かかる計算になります。人の一生の三倍近い時間です。

もちろん、法定耐用年数を超えたら直ちに使えなくなるわけではありません。丁寧なメンテナンスを重ねれば、設備は相当に長持ちします。現場の努力によって支えられている部分は大きいと思います。

しかし、「更新には210年」という数字について、私たちはそこに、先送りされた負担の残高が積み上がりつつある可能性を見るべきではないでしょうか。

そこで、次の二点を問いました。

  1. 必要なメンテナンス投資を含め、後年度にツケを回さないための投資額の適正値はいくらと考えているのか。
  2. 2026年度にはどの程度の投資額を予定しているのか。適正値との間にギャップがあるか。

市の回答は、1.については、約14億円、2.については8億円となり、年度で上下するとは思いますが、2026年度では6億円ほどのギャップ、すなわち投資不足となっています。

上水道資産270億円という大きさ

事業の規模感についても、共有しておきたい数字があります。

2025年度末の水道会計における、設備や水道管など固定資産への投資累計額は、約270億円にのぼります。
一方、2024年度の佐伯市の一般会計支出額は約457億円です。つまり水道事業は、市の一般会計の支出額の過半を超える規模の資産を抱えている計算になります。

水道は一つの道路や橋のレベルではありません。市が保有する財産の中でも、最大級の資産なのです。この規模感を市民の皆さんと共有することが、議論の出発点になると考えています。

収入は、構造的に減っていく

支出の話をしてきましたが、収入の側はどうか。

佐伯市の人口は減少が続いています。先ほどのレポートによれば、2021年の約6万6千人から4割ほど減少し、2046年には4万人を切ると見込まれています。加えて、トイレも洗濯機も食器洗い機も、水回りの機器は年々節水型が普及しています。
使う人が減り、一人当たりの使用量も減る。水道料収入は、この二つの要因から構造的に減っていきます。

ここに、水道事業の最大の難しさがあります。収入は人口に比例して減るのに、費用は設備の量に比例するからです。人口が半分になっても、918キロメートルの水道管は半分の長さにはなりません。

この構造をそのままにすれば、議論は「値上げか、地域の切り捨てか」という不毛な二択に見えてきます。しかし私は、第三の道があると考えています。

その第三の道について、検討課題として、以下の様に提案にしてみました。

提案① 地域別の収支を「見える化」する

現在の水道事業総合戦略は、水道を「維持する努力」については、よく整理されています。しかし、人口減少社会そのものにどう対応するのかという議論は、まだ十分ではないと感じました。

そこで最初に提案したのが、地域別の収支の見える化です。
市街地、山間部、沿海部では、条件がまったく異なります。水道管の延長も、必要な更新費も、人口一人当たりの維持コストも違う。それを地域別に分析し、把握することがまず必要ではないか。

これは、地域を選別するための作業ではありません。むしろ逆です。地域ごとに条件が違う以上、打ち手も違って当然であり、全市一律の議論をしていると、市街地に適した対策を山間部に当てはめてしまうような誤りを犯します。きめ細かな対策を打つためにこそ、きめ細かな数字が要るのです。

そして、分析した結果は市民と共有すべきだと考えます。数字を示さないまま「値上げをお願いします」と言われて、納得できる方はいないはずです。

提案② 「集約型+分散型」というハイブリッド

これまでの水道は、大きな浄水場から長い管でくまなく配る「集約型」を前提としてきました。人口が集中し、増え続けていた時代には、これが最も効率的な方法でした。

しかし人口密度が下がると、その効率は逆転します。同じ長さの管を、より少ない人数で支えることになるからです。
現在、全国では、従来の集約型だけでなく、人口密度の低い地域を対象に管路そのものを短くしていく「分散型」の水道モデルが研究されています。地下水の活用、遠隔監視、分散型水循環、小規模膜処理といった、新旧の技術を組み合わせた手法です。

ここで少し歴史の話をさせてください。江戸時代の享保年間、佐伯市の人口はおよそ3万6千人であったとされます。当時は当然、水道管を敷設した水道はほとんどなく、井戸水の利用が中心でした。衛生面の問題は別として、運用コストのかからない、究極の分散型と言えます。

そして、2015年に市が作成した「佐伯市人口分析」によれば、佐伯市の人口は1955年の11万8千人をピークに減り続け、昨年末で6万3千人。2060年には、享保年間をさらに下回る3万4千人まで減少すると推計されています。

歴史を単純に巻き戻すことはできません。しかし、人口規模に見合った水の届け方を、技術の進んだ現代の形で考え直すことには、十分な価値があるはずです。

以上を踏まえ、次の四点を問いました。

  1. 地域別にコスト分析を行った上で、課題を抽出しているのか。
  2. 地域特性に合った小規模分散型・地域完結型の水道によるコスト軽減策を調査し、具体化しているのか。
  3. 小水力発電を利用した副次的な収入への取り組みを行っているのか。
  4. 普段の経費削減は必須であり、水道料金の隔月徴収を検討してはどうか。

1.については把握は必要と考える、2.3.は検討を続ける、4.については前向きに進める、との回答でした。

水道事業の資産の約7割は、水道管が占めるといわれます。つまり水道の問題は、突き詰めれば「管をどこまで延ばし、どこまで維持し続けるのか」という問題に集約されます。

そしてこれは、私たちがどこで暮らし続けるのかという問いと、表裏一体です。単なるインフラの技術論ではなく、少子高齢化、地域交通、防災、空き家といった課題と、一体で議論しなければならないテーマなのです。

佐伯市は今年度2026年度から、まちの姿をかたちづくる次期「総合計画」の策定を開始します。
そこで最後に、市長にお尋ねしました。その計画において、コンパクト・シティ化とともに、本日議論した水道事業などの課題である、人口減少地域における「インフラの小規模分散化」を、まちづくりに反映させる考えがあるのか、と。

市長からは、「命に直結している、暮らしに直結している大事な部分でありますので、総合計画の中では話し合われるべき問題であります」との返答でした。

水道は、あまり誰も進んで話題にしない分野です。

目に見えない地中の設備であり、今日困っていないからこそ、議論は先送りされやすい。しかし先送りされた分は、必ず将来の誰かが、より大きな金額で支払うことになります。

今回の一般質問で私が申し上げたかったのは、値上げをするかしないか、という短い時間軸の話ではありません。20年後、30年後の佐伯市で、どの地域に、どのような方法で水を届け続けるのか。その設計図を、今のうちから市民の皆さんと一緒に描いておきたい、ということです。

幸い、市が策定した水道事業総合戦略は、現状を率直に、かつ丁寧に分析した良い資料です。まずはこの内容が広く共有されることを願っています。