サマリー
- 大分県で働く外国人は、この8年で2.6倍。
- 佐伯市は、県内のどの地域とも違う顔。造船と水産という「ものづくりの現場」に、技能を持った人が根を下ろし始めている。
- 2027年4月に「技能実習制度」に代わって「育成就労制度」が施行。一定期間を過ぎれば本人の意思で同じ分野の別の企業へ移ることができる。これからは、外国人からも選ばれる街となることが必要に。
- 多文化共生には、様々な解決しないといけない課題もあるのも事実。
大分県で働く外国人は8年で2.6倍に
市内の造船所の門の前を、朝夕に通ったことがあるでしょうか。作業服姿の若い人たちのなかに、日本語ではない言葉で、笑い合う声が確かに混じっています。
米水津や蒲江の水産加工場、佐伯市内の介護施設、建設現場でも、同じ光景があります。もう「珍しい風景」ではありません。
佐伯市の産業は、すでに外国から来た人たちの手でも、支えられているのです。
この話題は、ともすれば「人手不足の穴埋め」という言い方で語られがちです。
これは労働力の話であると同時に、私たち、これから誰と一緒に働いていくか、暮らしていくのかという、慎重に考えないといけないテーマです。まず、事実から始めます。
佐伯は「県平均」とはまったく違う顔
大分県の外国人の雇用状況
大分労働局が公表した「外国人雇用状況」の届出状況によれば、2025年10月末時点で県内で働く外国人は14,378人。
前年から2,202人、18.1%の増加で、届出が義務化された2007年以降の過去最高を更新しました。
雇用する事業所も2,508か所と、前年比12.8%増で過去最多です。
2017年10月末が5,458人でしたから、8年でおよそ2.6倍という計算になります。
図1|大分県内で働く外国人労働者数の推移(各年10月末時点)

出典:大分労働局「外国人雇用状況の届出状況まとめ」各年版より作成。平成30年〜令和4年は本図では割愛。国籍別ではベトナム3,186人(22.2%)、インドネシア2,784人(19.4%)、ミャンマー1,834人(12.8%)の順。
全国でも、2025年末の在留外国人は412万人と初めて400万人を超えました。
なかでも大分県の伸び率は13%と全国でも上位に入ります。温泉と観光、そして製造業を抱える大分は、いま全国で最も外国人材の増えている県のひとつなのです。
佐伯市の外国人雇用の特徴
同じ大分県内でも、地域によって外国人材の入り方はまるで違います。
ハローワーク佐伯の管内、つまり佐伯市・臼杵市・津久見市の3市を合わせた外国人労働者は1,038人。
その産業別内訳を見ると、製造業が66.0%と、県内7つの管内で最も高いのです。県全体では製造業は27.7%にすぎません。
図2|外国人労働者に占める製造業の割合(ハローワーク管内別)

出典:大分労働局「外国人雇用状況の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)」より作成。佐伯管内は佐伯市・臼杵市・津久見市を管轄。宇佐管内は技能実習の割合が66.8%と高く、農業・製造業での技能実習が中心。
もうひとつ、見逃せない数字があります。
在留資格の内訳で、佐伯管内は「専門的・技術的分野の在留資格」が38.6%と県内で最も高く、「特定技能」が339人。
県全体では「技能実習」が41.5%を占め、全国平均の20.4%の2倍という「技能実習県」であるにもかかわらず、佐伯だけは様相が違うのです。
理由は、造船・舶用工業の集積です。溶接、塗装、鉄工といった職種は、有効求人倍率が全国的に高止まりしており、「特定技能」制度でも受入れが進んでいる分野です。
そこに水産加工が加わる。佐伯は、単純作業の担い手ではなく、技能を身につけた人が、数年単位で腰を据える地域になりつつある、ということです。
佐伯に来ているのは「安い労働力」ばかりではありません。
技能を持ち、資格を取り、家族を呼べる在留資格へ進もうとしている人たちです。
この違いは、私たちの外国人施策の設計を考えることが必要な点かもしれません。
人口減少という前提
佐伯市の人口は、団塊の世代を生んだ1955年の11万8千人がピークでした。
2026年6月末時点で6万2千人。RESAS(地域経済分析システム)の推計では、2050年に3万6千人まで減ると見込まれています。
しかも近年は、転出による社会減よりも、亡くなる方が生まれる方を上回る自然減のほうが大きくなっている。これは、人が戻ってくれば止まる、という種類の減り方だけではありません。
図3|佐伯市の人口推移と将来推計

出典:佐伯市住民基本台帳および RESAS(地域経済分析システム)による将来推計人口をもとに作成。1955年は旧市町村域の合計。
私は、事業承継や、創業支援の推進、宇和島フェリーの新規航路開発、番匠川河口橋の早期着工や、鶴見・蒲江・米水津を物流でつなぐ「魚のコンビナート」構想などを提案してきました。
ただ、雇用場所、すなわち市場、工場、事務所も、つくれば動くものではありません。
溶接する人、船を塗る人、魚をさばく人、餌をやる人、事務をする人がいて、初めて動きます。雇用場所の創造・インフラ整備と、人材確保は、別々の政策ではなく一つの政策なのです。
外国人も選べる職場といった制度に
ここがポイントです。2027年4月、「技能実習制度」に代わって「育成就労制度」が施行されます。変わるのは看板だけではありません。
図4|育成就労制度で描かれるキャリアの道すじ

出典:育成就労制度に関する法令・運用要領および各種公表資料をもとに作成。制度の詳細は今後の運用要領改正で変わる可能性があります。
第一に、制度の目的が「技能移転による国際貢献」から「人材育成」と「人材確保」へと明文化されました。労働力として受け入れることが、初めて正面から認められたわけです。
第二に、受入れ企業には日本語教育の機会提供が義務づけられます。
第三に、これが最も大きいのですが、一定期間を過ぎれば本人の意思で同じ分野の別の企業へ移ることができるようになります。
つまり、これまでのように「来てくれた人がそのまま3年いてくれる」前提は崩れます。
賃金も、住まいも、休日の過ごし方も、隣町と、県外と、比べられる。
受け入れる時代から、選ばれる時代へ。確かにこれは、佐伯市の脅威でもありますが、対応の方法により強みにも変わりと思います。
ただ、2027年4月まで、あと半年あまり。準備の時間はだいぶ少なくなっています。
四つのニーズ
この新制度に対応する課題は、主に次の四つに集約される思います。一朝一夕に対応するには難しい面はあります。課題を整理してみました。
| 課題 | いま起きていること | 対応ニーズ |
| ことばの壁 | 作業指示は通じても、市役所の手続きや病院、子どもの学校の連絡は通じない。企業任せになりがち。 | 生活日本語を地域で支える受け皿づくり/やさしい日本語の普及 |
| 住まい | 企業寮が満杯。単身向けは何とかなっても、家族で暮らせる住宅の選択肢が乏しい。 | 空き家・市営住宅の活用、企業寮の共同利用 |
| 相談の入口 | 困りごとの相談先が分散し、どこに行けばよいか本人にも企業にも分からない。 | 多言語対応のワンストップ窓口 |
| 選ばれる力 | 2027年の転籍解禁で、賃金・生活環境が近隣と直接比較される。 | キャリアの見える化と、資格取得の支援 |
特に三つ目、「相談の入口」は行政にしかできない仕事です。
ゴミの出し方、国民健康保険、住民税、子どもの就学。どれも生活に直結しますが、企業の担当者がすべて肩代わりするのは無理があります。
ここを市が引き受けることは、外国人本人のためであると同時に、事業者の負担を減らす産業政策でもあります。
佐伯にはすでに受け入れ環境の一つがある
佐伯市には「佐伯民際日本語学校」が開校しました。
京都で20年以上日本語学校を運営してきた事業者が佐伯に進出したもので、大分県で唯一、全国でも41校しかない文部科学省認定校です。
主にミャンマーからの留学生の受入れを予定し、運営が始まりました。
さらに、この学校と佐伯市は多文化共生の実現に向けた包括連携協定を結んでいます。
留学生のカリキュラムに日本文化の体験や地元企業・学校との交流が組み込まれ、市内に住む外国人向けの日本語教室やJLPT(日本語能力試験)対策コースも開かれる。
国家資格となった日本語教師の職場が佐伯に生まれた、という意味もあります。
これは佐伯に、造船と水産という外国人の受け皿があり、そこに人が来ているからこそ、教育機関が「佐伯なら成り立つ」と判断したのかもしれません。産業 → 人 → 教育という循環の、二周目に入りかけています。
但し、入学した日本語学校の生徒が望む産業が佐伯にあるのか、この点は重要です。
この芽を枯らさないことが、言い換えると生徒と企業との間でニーズのミスマッチを起こさない工夫が、いま佐伯に求められているとも言えます。
4つの選ばれるための佐伯市の課題
多言語のワンストップ窓口を市役所に置く
翻訳機器と、やさしい日本語の職員研修から始められます。
窓口は「外国人のための窓口」ではなく、「受け入れる事業者のための窓口」として設計するのが要点です。相談件数を記録すれば、次の施策の根拠にもなります。
家族で暮らせる住まいを用意する
特定技能2号に進めば家族の帯同が可能になります。単身寮しかないまちは、そこで選ばれなくなります。
市内には空き家が数多くあります。改修補助と、多言語での契約支援、そして保証人の課題を一緒に解く仕組みを組み立てる必要があります。空き家対策と人材定着を、同じ財布で進められるはずです。
学校と医療の受け入れ体制を先に整える
子どもが増えてから慌てるのでは遅いと思います。日本語指導が必要な児童生徒への支援体制、保育所の受け入れ、医療通訳の確保。これは外国人施策であると同時に、そのまま佐伯市民の子育て環境の底上げになります。
「佐伯で技能を極める」道すじを見せる
造船・舶用工業、漁業、飲食料品製造業も、特定技能の対象分野です。
溶接や塗装の資格を取り、特定技能2号まで進めば、在留期間の更新に上限はなくなり、家族と暮らせます。この道すじを、企業と市が一緒になって具体的に示すことが必要となります。
「3年働く場所」ではなく「一生の仕事を得る場所」として佐伯を語れるかどうかが、勝負の分かれ目になります。
むすびに
外国人にやさしい街とは、情緒の話ではありません。
手続きが分かりやすいこと、住む場所があること、言葉を学べること、困ったときに行ける場所があること。その一つひとつを制度として積み上げること、すなわち、多文化共生の具体的なシステム構築が、行政にとってのやさしさです。
もちろん、日本人に対する雇用機会を増やして、人口が6万2千人から3万6千人へ向かうことを防ぐ施策も重要です。
一方で、佐伯市在住の外国人が1,000人を超える勢いにある、昨今の情勢では私たちには、二つの道のどちらを選ぶかを迫られているのも事実でしょう。
街が縮んでいくことを受け入れるか、新しい仲間と一緒に産業を守り、街を守るか。
佐伯市には九州一の面積と、豊かな海と、船をつくる技術があります。そこに世界からも人が集まってくるのなら、それは衰退の話ではなく、佐伯がもう一度開かれていく話です。
多文化共生には、様々な解決していかないといけない難しい問題があるのも事実です。この点は、我々市民がしっかりと議論をしていかないといけない、重要な課題です。
